肉離れ

肉離れとは、一般的に使われる言葉ですが、医学的には「筋損傷」や「筋断裂」と呼ばれます。
これは、筋肉が自身の収縮する力や、急激に引き伸ばされる力に耐えきれず、筋線維や筋膜といった組織が断裂・損傷してしまった状態を指します。

特に、筋肉が力を入れながら引き伸ばされる動き（遠心性収縮）の際に発生しやすく、ダッシュの踏み込みやジャンプの着地といった動作が引き金となります。
患者さんがしばしば口にする「ブチッ」と言う感覚は、まさに筋線維が物理的に断裂する瞬間の音なのです。

肉離れは全身のどの筋肉にも起こり得ますが、特に次の部位で発生しやすい傾向があります。

ハムストリングス（太もも裏）

全肉離れの約8割を占める最も多い部位です。
ダッシュやスプリント動作で高い負荷がかかります。

下腿三頭筋（ふくらはぎ）

テニスやバドミントンなど、急な方向転換が多いスポーツで頻発し、「テニスレッグ」とも呼ばれます。

大腿四頭筋（太もも前）

サッカーのキック動作など、膝を強く伸ばす動きで損傷しやすい部位です。

内転筋群（太もも内側）

素早いサイドステップなど、股関節を急に開く動きで起こりやすいです。

・急な加速やスプリント
・急停止や方向転換
・ジャンプと着地
・サッカーのキック動作

なぜ同じ動きをしても、肉離れを起こす人と起こさない人がいるのでしょうか。
その差は、筋肉が事前に抱えていた脆弱性にあります。

筋疲労

疲労した筋肉は衝撃吸収能力や身体をコントロールする能力が低下し、予期せぬ負荷に対応できなくなります。

柔軟性の低下

筋肉が硬く、伸びしろが少ない状態だと、急に引き伸ばされた際に切れやすくなります。
特に気温が低い冬場は注意が必要です。

ウォーミングアップ不足

準備運動を怠ると、筋肉が冷えて硬いまま急な運動負荷にさらされるため、損傷リスクが著しく高まります。

筋力バランスの不均衡

例えば、太もも前側の筋肉（大腿四頭筋）が裏側の筋肉（ハムストリングス）に比べて著しく強い場合、脚を振り出すパワーにブレーキ役のハムストリングスが耐えきれず損傷してしまいます。

過去のケガ

一度肉離れを起こした部位は、後述する硬い組織（瘢痕組織）が形成され、再発の温床となりやすいです。

これらのリスク要因は互いに関連し合っており、ケガは身体が発する「準備不足」のサインと捉えることが、再発予防の第一歩となります。

筋肉が損傷すると、その修復過程で「瘢痕組織」と言う硬い組織が作られます。
これは傷跡のようなもので、正常な筋線維と比べて伸縮性がありません。

適切な処置やリハビリを怠ると、この瘢痕組織は硬く、しこりのようになってしまいます。
その結果、運動時に周囲のしなやかな筋肉の動きについていけず、瘢痕組織との境目にストレスが集中し、わずかな負荷で再び断裂してしまうのです。
これが、肉離れが「癖になる」と言われる最大の理由です。

当院では肉離れの施術において、再発予防と安全な回復を大切にしています。
肉離れはスポーツや急な動作で筋肉に強い負担がかかり起こります。
受傷直後は、患部を守りつつ過度な安静に偏らず、無理のない範囲での動きを大切にします。
そして血流を促す工夫や段階的な運動療法を取り入れながら回復を進めます。
炎症が落ち着いた後は、ストレッチや筋力トレーニングで柔軟性や筋力のバランスを整え、再発や重症化を防ぎます。
一人ひとりの状態に合わせた施術と生活指導で、安心してスポーツや日常生活に復帰できる身体づくりを支えます。

当院では、まずケガの状況、原因、普段の運動習慣などを詳しくヒアリングし、患部の状態を正確に把握します。 その上で、回復の段階に合わせたアプローチを行います。

急性期（痛みが強い時期）

まず、炎症と痛みを抑えることが最優先です。
受傷直後であればRICE処置を施し、さらに当院独自の「ハイボルテージ療法」と言う特殊な電気治療器を用いて、痛みの原因となっている神経の興奮を鎮め、即時的な鎮痛効果を図ります。
プロスポーツ選手のケアにも用いられるこの施術は、従来の電気治療器より深部へアプローチできるため、高い効果が期待できます。

回復期（痛みが和らいできた時期）

炎症が治まったら、根本原因へのアプローチを開始します。
肉離れを起こす背景には、身体のゆがみや筋力バランスの乱れが隠れています。
当院では、手技による「骨格矯正」で身体全体のバランスを整え、特定の筋肉に負担がかからない状態を作ります。

再発予防期（機能回復を目指す時期）

さらに、再発しないための身体づくりとして「楽トレ（EMS）」を導入します。
これは、複合高周波を用いて、自分では鍛えにくい深層筋（インナーマッスル）を寝ながらにして効率的に強化する最新の機器です。
身体の土台である体幹を安定させることで、ケガをしにくい、しなやかで力強い身体へと導きます。

このように、ヒアリングと原因検査に基づき、「ハイボルテージ」による鎮痛、「骨格矯正」によるバランス調整、「楽トレ」による筋力強化を組み合わせ、一人ひとりに最適なオーダーメイドの施術で、肉離れの根本改善と再発予防を徹底的にサポートします。

肉離れ（筋挫傷）は、いつ、どこで、何をして痛めたかと言う明確な原因がある急性の外傷にあたるため、整骨院での健康保険の適用が認められています。

ただし、保険が適用されるのは、あくまで痛めた部位に対する最低限の施術（電気療法、冷罨法、後療法など）に限られます。
痛みの根本原因である身体のゆがみの改善や、再発予防のためのインナーマッスルトレーニング（楽トレなど）は保険適用外となります。

当院では、患者さんのご希望や症状に合わせて、保険施術と自費施術を組み合わせた最適なプランをご提案させていただきます。

近年では、従来の「RICE処置」から進化した「POLICE原則」が推奨されています。

P（Protection）：保護

患部を悪化させないよう、サポーターやテーピング、松葉杖などで保護します。

OL（Optimal Loading）：最適な負荷

これが最も重要なポイントです。
完全な安静ではなく、専門家の指導のもと、痛みのない範囲で早期から適度な負荷をかけることで、治癒を促進し、質の高い組織の修復を促します。
自己判断はせず、必ず専門家にご相談ください。

I（Ice）：冷却

氷のうなどを使い、1回15〜20分を目安に患部を冷やします。
内出血や腫れを抑え、痛みを和らげます。

C（Compression）：圧迫

弾性包帯などで患部を適度に圧迫し、腫れを防ぎます。

E（Elevation）：挙上

患部を心臓より高い位置に保ち、腫れを軽減させます。

良かれと思ってやったことが、かえって症状を悪化させてしまうことがあります。特に受傷後48〜72時間は、次の行動は避けましょう。

温めること（入浴など）

血管が拡張し、内出血や炎症を悪化させる可能性があります。
湯船に浸かるのは避け、シャワー程度にしましょう。

マッサージや強いストレッチ

損傷した筋線維をさらに傷つけ、回復を遅らせる原因になります。

無理な運動

痛みが軽くなったからといって、自己判断で運動を再開するのは再発のリスクを高めるため非常に危険です。